第25章 『美学』
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それからの私は。
女中としての仕事に加え、馬術や各武器の練習などそれなりに忙しい日々を送り………
いよいよ戦への出陣当日を迎えた。
出立の朝、
自前の洋服に着替えて外へ出ると。
城門前には大勢の足軽と配下の者が整列し、
武将達は、各々が受け持つ部隊へ冷静に指示を飛ばしている。
鎧が擦れる音、風にはためく家紋入りの幟、独特な緊張感ーーー
大河ドラマのような光景がそこに広がっていて、思わず目を見張ってしまう。
すると、足取り軽やかな小梅が元気いっぱいに手を振りながらこちらへ駆けてきて。
袖や裾に手作りのレースを施した、なんとも鼻につく甘々なデザインの着物が朝日に照らされて眩しい。
小柄な身体に相反し、異様に大きな風呂敷を背負っている。
「蓮ちゃん、おっはよ〜!ご機嫌いかが?」
「至って普通。
………なんなのその大荷物は」
「もちろん、家康応援グッズだよ!
あとは着替えと、お弁当と、おやつと、コスメとぉ〜……」
何がそんなに楽しいのか、意気揚々とはしゃいで私の腕を振り回してくる。
まるでピクニック気分だ。
……っていうか家康応援グッズって何?
「わぁっ、たくさん御守もらったんだね〜!追っ掛けの子達から?」
「うん、まぁ……」
「モテモテだねぇ、蓮ちゃんっ」
「………嬉しくないんだけど」
今朝方、支度を済ませ部屋を出た途端。
待ち伏せしていた複数の女中達ひとりひとりから御守を手渡されたのだ。
「身につけて欲しい」と懇願され、仕方無く受け取った私は、ジーンズのベルトに結んでぶら下げた。
まったく………。
私は単なる付き添いであって、戦う訳じゃないっつーの。