第6章 『心得』
あの日ーーーーーーーーーーー
『幸、その格好どうした?……何かあった?』
桜子さんを探しに出た幸がずぶ濡れで城に戻ってきたので何事かと思った
『…………別に』
藁草履を解いているその背中が、“何かありました”と分かり易く物語っていた。
手には、桜子さんのスマホが握られている。
『幸………あの子と、』
『“嫌だ”ってよ。』
濡れた足袋を荒々しく脱ぐと、床板に裸足で乗り上げた
『…………もうあいつには必要以上近付かねー』
そう言い残すと自室へと向かっていってしまった。
これで、よかったのかもしれない。
桜子さんの指輪………細いシンプルなシルバー。あれはきっと、男からの贈り物だ。
必死に誤魔化してたからてっきりこの時代で幸と遊びの恋でもしようと企んでいるのでは、と危惧していたがどうやら違うようだ。
これ以上幸が傷つかずに済んでよかった。そう思った
「ああ~!また失敗じゃん」
城下町の甘味屋の腰掛けで、平たい小物を持ち独り言を連発する女を店主は不思議そうに見ている。
「あ……あの、お客さん。団子を召し上がり終えてから随分時間が経ってますが……ご注文が無ければ席を……」
「ああ。じゃあお茶のお代りちょーだい。」
「は、はあ」
店主が呆れているとも知らず桜子は長時間席に居座りオフラインのアプリゲームをやっていた。
幸村との事があって以来、寝食以外はなるべくこうして外で時間を潰している。
貰った小遣いを節約しながら過ごす日々。
上杉家由縁の姫だとは一般には知られていないが、もしもの事があってはと護衛をつけるように言われたが断っていた。
(もう二週間くらいになるかな……)
避けてるつもりは無い、けど。
離れていた方がお互いの為になる気がした
「はぁー、ゲームも飽きたしまた村正と遊んで来よっかなー」
出されたお茶をすすっていると、
「あ、いたいた。」
振り向かなくても分かった
(この声は。)