第6章 『心得』
「御馳走様っ」
いつもの朝餉風景。
食べ物を胃に流し入れ箸を置きそそくさと立ち上がろうとする桜子に信玄が言葉を投げかける
「天女、最近どうしたんだ?このところ珍しくお代りしてないな。」
「ちょっとダイエット………減量してて」
米と梅干のみを交互に口に運んでいた謙信も手を止め会話に割って入る
「……必要ないだろう。むしろ筋力が低下し益々男に勝てなくなるぞ。」
「乙女には色々あるんですっ。じゃあ少し出掛けてきます」
障子を閉め足早に去って行く桜子を見やり鼻で笑う
「そんな玉じゃないだろうに。………しかし暫く鍛練にも付き合おうとしない上に城内では異様に静かに暮らしている。あれだけ騒がしかっただけに気味が悪いな」
じぃっ、と一人に全員の視線が集まる。
終止無言で食事していた幸村は眼圧に耐えきれず溜め息を漏らした
「…………なんすか」
「幸村、前に小娘の探索に出ただろう。あの日からだ、奴もお前も様子が違うのは」
「別に何も無いっすよ。皆なんか勘違いしてるって」
表情を変えずに味噌汁が入った椀を手に取り口元に傾けた
それを横目に、佐助は謙信が言った“あの日”の事を思い出していた。