第24章 『融氷』
定位置に保管していた木箱ーーー“莨盆”を掴み寄せ、膝の手前に置く。
蓋を開ければ中には専用の道具が整っており、そばではわくわくと心躍らせるような表情の蓮が固唾を飲んで凝視していて。
高飛車な態度が目立つ一方で、玩具を欲しがる子どもを彷彿とさせるその眼差しにまたもや吹き出しそうになりつつもさっそく取り扱いの説明を始める。
「ここに、これをこうしてだな………」
刻み莨の葉を少量つまんで指で適当に丸め、煙管の先端にある火皿へ詰める。
あとは火打ち石を用いて着火すれば、準備は完了ーーー
慣れれば容易な手順だ。
「へぇ、割と簡単じゃん。貸して」
次は吸引の手本を見せてやらねばと思っていたのだが、待ちきれないとばかりに俺の手から素早く煙管を奪い取った蓮は躊躇いも無く吸い口の部分を咥えた。
「っ、おーい待て待て。
思いきり吸い込むのは危険だからな。食むように少しづつ煙を取り入れて……そうそう」
吸引のやり方にはコツがある。
動作を交えて指南してるうちに、自然と互いの距離が縮まっていき……
気付いた時には、すぐそこに端正な横顔があった。
凛とした雰囲気を醸し出す目鼻立ちと、
ほんのり赤い艷やかな唇。・・・・
胸の奥が、ドキリと跳ねる。
「こう?」
ふっ と煙を短く吐き、
流れるような視線をこちらに向ける彼女は。
そこらの男共よりもずっと粋で……
煙管を嗜むどの女ともひと味違う色香を漂わせていて。
ーーー美しかったのだ。