第24章 『融氷』
すっ、と真っ直ぐ伸びた背筋。
意外にも美しい姿勢と所作で茶を数回喉に通し、湯呑を受け皿に落ち着かせた蓮はーーー
その姿とはかけ離れた、品の無い質問を淡々とぶつけてきた。
「それにしてもあんた、忙しいって言う割には城下でフラフラして……気晴らしに女でも引っ掛けようとしてたの?」
「引っ掛け……。
違う違う、
これを店で買い付けてただけだ」
先程購入した物をちらりと懐から覗かせた後、すぐ仕舞おうとしたのだが「詳しく見せろ」としつこく催促してくる。
どうやら怪しい代物だと疑っているようなので潔白を証明する為、畳の上で披露したそれーーー
白い小さな包み紙に入っているのは、刻まれた莨の葉。
「一服しようと思ったんだが肝心なこいつを丁度切らしててな」
「一服?……もしかして煙管?」
「ああ」
「見せて!」
よほど気になるのか、途端に身を乗り出し俺の衿元を鷲掴んできた。やたらと力が強い。
勢いに圧されつつ、腰に差していた叺から愛用の煙管を取り出して見せてやると………
蓮は見開いた瞳を輝かせ、細部まで興味津々に眺めていた。
そんなに珍しいのだろうか。
「へぇぇ、これが……
実物、初めて見た」
「先の世には無いのか?」
「あるにはあるけど、日常で使ってる人はごく稀かな。
ねぇ、私も吸ってみたい!」
「駄ー目ーだ。若い娘がやるもんじゃない」
「もう既に喫煙者なんだけど?
いいから早く使い方教えて」
そういやこの時代ではまったくお目にかかった事のない紙巻き状の妙な莨を嗜んでいたっけ。
正直煙管を女にはあまり薦めたくはないが、どうしてもと言うので仕方無く準備に取り掛かる。