第24章 『融氷』
それから・・・・
着付けが終わりさっさと帰ろうとする蓮だったがウリを引き合いに出すと渋々足を止め、俺の真正面に腰を下ろした。
障子からは心地の良い風が流れ込み、澄んだ空気が漂う室内ーーー
本題に入る前にまずは他愛のない小話から始めてみよう、と、茶をひと啜りした後おもむろに口を開く。
「西日が暖かいなぁ、今日は。朝から天気良かったもんな」
「…………」
「ちなみにお前から預かった着物はきちんと洗ったあと誰にも気付かれないように返してやるから安心しろよ?その着物はやる」
「……わざわざどーも」
「そういえば勉学捗ってるんだってな。物覚えが早いと三成も褒めていたぞ」
「……あ、そ」
「…………」
「…………」
意気込んだのも束の間、訪れる沈黙。
胸中を暴かれたことが尾を引いているのか、やや不機嫌な面持ちでひたすらウリの尻尾を弄っている。
………気まずい。
いささか笑い過ぎてしまっただろうか。
如何にして会話を繋げようか思案しつつ、再び茶を口につけた、時。
静かに、ぽつりと呟く声がした。
「……あんたさ、ここんとこ小言減ったよね。風紀委員の癖に」
「小言じゃなくて、正しく諭してるんだ」
「うざっ」
「うざったくても正しい事は受け入れるべきだろう。
まぁ、戦が迫ってることだしお前を諭す暇も無いくらい忙しいけどな。
藤吉の稽古も見てやらなくちゃならないし」
「稽古?藤吉が?」
「ああ。妙に懐かれちまってな。
剣術を教えてやってるんだ」
そう、あの一件後藤吉は頻繁に俺の前に現れ内政についてや戦の様子などを熱心に尋ねてくるようになり、剣術を一から学びたいと志願してきたのだ。
以来、仕事の合間を縫っては稽古をつけてやっている。
「………ふぅん。
だから最近音沙汰無かったんだ。そういうことか」
ーーー不思議なことに、
先程まで不機嫌だったはずの蓮は。
その話題が進むに従って険しい顔つきが徐々に緩んでいき………
放置していた湯呑みを手に取り、ようやく最初のひと口を味わっていて。
きっと藤吉の更生ぶりが嬉しいのだろう、と、湯気の向こうにある彼女の姿を捉えていた。