第24章 『融氷』
ーーーーーーーーーーーー
たまたま、偶然だった。
雑務も一段落し、城下へ繰り出した俺は。
贔屓店を訪ね、目当てのものを購入。
さぁ戻って一服でもしようか、と帰路を歩いていると………
どこからともなくけたたましい女の金切り声が聞こえてきて、何事かと騒ぎの渦中へ足を運んでみれば蓮と見知らぬ女が口論している最中で。
やり取りしている話の内容からして、男絡みのもつれなのだろうと察した。
なんとか事態は収拾したのだが……
またいつどこで問題を起こすのやら。
「秀吉様、こちらで如何でしょう」
「ああ、これで構わない。悪いな」
御殿の一室にて。
衣桁に掛かっているのは、鮮やかな牡丹と蝶が舞う黒地の着物。
見繕ってくれた女中に礼を言い、それを小脇に抱え部屋を後にする。
廊下を歩き進む途中、
そういえば問屋から取り寄せたばかりの茶葉があったな とふと思い出し。
厨に寄り、用意した茶器を盆の上に載せて自室へと向かった。
ーーー最近の蓮は。
信長様に対しての無礼な態度や言動は相変わらずであるものの、当初のように殺気立って良からぬ策を講じてみたり何かを企む様子は垣間見えなくなった。
女中の仕事も難無くこなし寺で勉学に励む毎日を送っていて、少しは丸くなったのかと思っていたが……
癖の悪い男遊びをしていたとはな。
さて、どうやって灸を据えようかーーー
「特にああいう奴には頭ごなしに叱りつけるのは逆効果だ。まずは茶でも啜って落ち着かせてから、徐々に………」
あれこれと段取りを決めながら、慣れた道順をゆっくりと進んでいき………
自室の襖を開けようとした、時。
微かに漏れてくる朗らかな笑い声に気が付き、ぴたりと指を止めた。