第5章 『抑圧』
「まぁっ!こんな時間まで何をしていたのです!?そんな泥だらけで…………しかもびしょ濡れじゃないの」
「……………すみません」
夕方、城に帰ると佳世から説教を喰らったがそんな事よりも幸とどんな顔をして会えばいいのかと悩みながら着替えを済ませ、湯浴みに向かう途中さっそく本人と出くわしてしまった。
「「あ……………」」
何を言えばいいのかーーーーーー
僅かな無言の時間。
するとおもむろに幸村が“板”と呼ぶそれを桜子に手渡した。
そうだ。あの時受け取るのも忘れて私は逃げ出したんだ。
「あっ………ありがと………」
「………あの…………さ、さっきは………」
「気にしてないから!」
幸が言い終わる前に切り出した
「さっきの事……全然気にしてないから大丈夫だよ?ほら、あれだよ、気の迷いってやつ。あるでしょ、そーいうのって」
頑張って笑顔を作ってみる。頬が引きつってないだろうか。
幸はこちらを見据えた後、視線を逸らすと
「……………そうだな」
そう言って私の横を通り過ぎて行った
「ごめんね…………」
暫く立ちすくんだままだった桜子は、小さく独りごちると湯殿へ歩き出す
これでいい。
“気の迷い”
そう自分に言い聞かせて
本心は箱にしまい込んで
鎖でぐるぐる巻き付けて、南京錠をいくつもぶら下げて。
二度と開かないように、蓋をしちゃえばいいの