第24章 『融氷』
「同行をやめさせるようにと、御館様へしつこく嘆願する始末だ。その度に一蹴されているがな」
「ふぅん」
崇拝してやまない主君の為だ、
滞りなく戦を勝利へと導かなければならない。
おおかた、女は足手まといになると懸念しているのだろう。
………機嫌を損ねてる、ねぇ。
そういや軍議の時も険しい顔で睨んでたしな。
私だって別に、興味本位で行く訳じゃないのにさ。
悪かったな、邪魔で!
「なるほどねー。近頃めっきり話し掛けてこないのはそのせいか。
露出するなとか男遊びするなとかあれだけ口煩く説教垂れてた癖に………
呆れて見放してるんでしょ、どうせ」
構われると鬱陶しく感じるし、
放っとかれたら腹立たしい。
自分でも訳の分からない感情が交差していて………
とにかく、苛々する。
その苛つきをぶつけるかのように。
乱暴な所作で火薬と弾丸を銃口に押し込んで手順を踏み、力強く的へと発砲する。
繰り返し、繰り返しーーー
「そんなに寂しいか」
明智の呟きが銃声の狭間に聞こえたような気がして、否定したいのは山々だったが今はこの気持ち悪い感情を解消するのに精一杯で返事はしなかった。
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そして・・・・・
時が過ぎ、
訓練も終了の頃合いとなり。
銃の整備を済ませ倉庫に仕舞うと、
蓮は足早に城門へと歩き始める。
「どこへ行く」
「城下で食材を調達しに。今日は私が買い出し当番だからね」
「ああ、十日に一度のあれか。
女中の仕事のみならずわざわざ政宗の私的な趣味まで手伝うとはな。惚れたか?」
「言っておくけど料理は私の趣味でもあるの。勘違いしないでくれる?ただあいつの技術を盗むのが目的だから。じゃあね」
特段狼狽えもせず、むしろ迷惑そうにピシャリと断言し黒地の着物を翻す。
颯爽と立ち去っていく様子に、光秀は顎をさすりつつ不敵に笑みを浮かべていた。
「“攻撃は最大の防御なり”………か。
さて………どっちへ転ぶ?」