第24章 『融氷』
捌いた鮭の身は塩焼きにし、取り出した腹子はバラして調味料に漬けておく。
他にも野菜を切り分けたり海鮮物を下処理するなど、順調に工程を経ていき……
共同作業も後半戦に突入した頃。
混ぜ終えた酢飯を団扇で煽ぎ冷ましていると
ずいっ、と目の前に椀が差し出された。
「味見してみろ」
中には、鍋から掬ったお吸い物の汁。
具は麩と葱だけのシンプルな見た目だ。
ひとくち啜ってみれば………
ふんわりと、口内に優しい風味が広がった。
さっぱりした味付けだけど、出汁が利いてて深みがあり もはや“美味しい”以外の言葉は見つからない。
認める。こいつは私よりも料理が上手い。
……でもやっぱり悔しいから、褒めてなんかやらないけどね。
「………普通、じゃない?」
「そうか。なら、良かった」
わざと薄い反応を示し椀を突っ返すと、
受け取った伊達はふっと小さく笑い声をこぼし鍋の方へ向き直った。
私の負け惜しみを見抜いているのかーーーこいつの料理を最初に食べた際もこんなやり取りをした覚えがある。
「………あのさ、」
「んー?」
「なんでわざわざあの子達の為に料理作ろうと思ったの?自分の時間を割いてまで」
「大層な理由は無ぇ。ただ美味い飯を食わせてやりたいだけだ。
ガリガリな身体で残飯を漁ってたあいつ等の過去を吹き飛ばせるくらいのな」
「…………」
「美味いもん食えば元気になる。あいつ等の食いっぷりは凄ぇぞー。米一粒も残さないんだ。
ーーー俺がいつか、飢えとは無縁の世の中にしてみせるさ」
普段この男とは、褥の中で獣のように互いの欲を吐き出し合うことしかしていない。
毎夜快楽に興じている時とは違い、慈しみを含んだ朗らかな笑みーーーそして強い信念に満ち溢れた横顔が湯気の向こうに見えた。