第24章 『融氷』
南蛮人は馬の左側に回って騎乗するのが一般的だそうだが、ここ日ノ本の武士達は右側から乗るのだという。
なんでも、左腰に差してある刀の柄が当たらないようにする為だとか。
指示に従い、五島黒の右側に立った私は
補助を受けつつ鐙に片足を掛け、もう片方で地面を思いきり蹴り上げた。
鞍に跨がってみると、目線がぐんと高くなって景色の見え方も今までと全然違う。なんとも不思議な感覚だ。
「そうそう、背筋は真っ直ぐ………
俺が乗るまでそのまま静かにしてろよ。
よっ、と」
すると伊達は慣れた所作で飛び乗り、私の背後に跨がった。手綱を握っていた手の甲に、奴の大きなそれが重なるーーー
「………あんたが前へ座れば?その方が手綱の操作しやすいんじゃないの?」
「いいや、これでいい。
馬上の後方はな、後ろ脚が駆動してるから揺れが激しいんだ。そんなとこに素人の女を乗せる馬鹿は居ねぇよ」
「ふぅん……そういうもんなんだ」
男女の二人乗りといえば。
前に跨がり颯爽と手綱を操る男と、その後ろから抱きつく女ーーーなんて、なんとなく浮かんでいたイメージとは異なるも、実際はこれがきちんと理屈に基づいた乗馬法なのだと納得した。
やってみないと分からないもんだね。
それからは………
発進・停止を促す合図、方向転換や速度をコントロールする術を熱心に指導されて。
仕方無く始めた乗馬ーーー
しかし、時間が経つにつれだんだん楽しくなってきた。
「本当に初めてか?随分呑み込みが早いな。体幹もしっかりしてるし」
「初心者だけどすぐ上達してみせるから。今に見てな」
「言うねぇ。
まぁこの調子ならそのうち人並みに乗りこなせるだろうな。
んで夜になったら俺の上にも乗る気だろ」
「もちろん。調教してあげよっか?」
「ははっ、俺が大人しく従うなんて有り得ねぇ」
ああだこうだと冗談を飛ばし合いながら五島黒をゆっくりと走らせれば、心地良い向かい風が全身を掠めていく。
車を運転するのも好きだけれど、馬と共に進む一体感は格別で魅力的だった。
緑豊かな自然の中、清涼な空気を吸って風を感じるーーー私が求めてたものはこれなんじゃないかと思うくらいに。・・・・・