第24章 『融氷』
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午後になり、読み書きの勉強がひと段落して。
広大な敷地を有する鍛錬場では、
仁王立ちで腕組みしている私と、一頭の馬と……その横でやたらにやにやと笑みを浮かべている伊達政宗がいた。
「いやぁ、相変わらず面白ぇ高飛車っぷりだよな。今朝だって秀吉が慌ててたし」
「高飛車で結構。いつまでも思い出し笑いしてないで、さっさと馬の乗り方教えてくれない?」
「ふ、どこまでも偉そうな女だ。
来いよ。基礎から叩き込んでやる」
今朝行われた軍議の際ーーー
高圧的に啖呵を切った私に対する周囲の反応は様々だった。
迷惑そうに眉を顰める徳川、きょとんと目を丸くする明智と伊達。
豊臣は例の如く憤慨していて、肝心の織田に至っては「異論は無い」とすんなり快諾し、愉悦に笑っていた。
かくして、戦への同行が決まった私と小梅は万が一に備えて武器の扱い方や馬術などを各武将から習うことになり………
まず今日は乗馬の知識を得ようと、こうしてここにいるという訳だ。
「そういえばあの小っこいのはどうした?」
「小梅なら徳川と弓道場へ行ったみたいだけど」
「へぇ、今回ばかりは家康も逃げらねれぇな。
ーーーさて……取り掛かる前にこいつを紹介しておく。“五島黒”だ」
そう呼ばれた馬ーーー五島黒は、均整のとれた逞しい体つきをしていて、艶々と綺麗な黒毛で覆われていた。
戦では必ずこの五島黒に騎乗し、ありとあらゆる死線をくぐり抜けてきたという。相当お気に入りのようだ。
「あんた、五島黒っていうんだ」
そっと首を撫でてやれば、目を細め気持ち良さそうにしていて長い睫毛から垣間見えるつぶらな瞳が愛くるしい。
馬に接する機会なんてあまり無かったけれど、こうやって直に触れ合ってみると意外と可愛いもので。
撫でれば撫でるほど、嬉しげに甘えてくる。
「お、ご機嫌だな五島黒。
相性は悪くねぇみたいだし、さっそく始めるか」