第23章 『理由』 ※微R18
二人揃って木の根元へ腰掛け、藤吉の興奮が収まるのを待ちながら遥か彼方の地平線を見詰める。
頭上からは木漏れ日がきらきらと影の合間で光っていて………
蓮は傍らで立ったまま、煙草に火を点けていた。
暫し間を置き、
頃合いを見計らって何気無く切り出してみるーーー
「藤吉、その名は誰がつけてくれた?」
「父ちゃん。もう死んだけど」
「………そうか。良い名だな」
遠い昔、自分の父親も俺に似たような幼名を付けてくれたっけ。
そして同じく、今はこの世に存在しない。
「元々貧乏だったけど、父ちゃんが生きてる頃は楽しかった。家族みんなで畑仕事して、みんなで飯を食って………
でも、一瞬で奪われたんだ。全部」
ぽつり、ぽつりと過去の暮らしを振り返る藤吉ーーー
ひと月ほど前のことだろうか、
農村に暮らす一家を野盗が襲撃するという事件が発生した。
食い物やら金目のものを強奪し、一家は惨殺されたそうだ………子ども一人だけを除いて。
その生き残った一人が藤吉らしい。
「………それからだ。親しくしてたはずの近所の奴等め、コロッと態度変えやがった。急に余所余所しくなって声すら掛けてこなくなったんだ。何故だか分かるか?」
「…………」
「下手に優しくして懐かれちゃ面倒だからな。他人の子どもの世話なんか誰も引き受けたくなかったのさ。まるで俺の存在を無視するみてぇに通り過ぎて行くんだ」
自分達の食い扶持を確保するだけで精一杯な農村の民ーーー
情だけじゃどうにもならないこともある。それ故に人間の嫌な部分が露呈してしまったのだろう。
それから藤吉は独りきり、浮浪者のように山や町を彷徨い始めた、と。ーーー
環境は、人を変える。
流動的な人生を送ってきた俺は、身に沁みていた。
「………藤吉、お前のやるせない気持ちは分かる。でもな、だからといって、」
「あんたに何が分かるんだよ!!」