第23章 『理由』 ※微R18
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「ーーー承知した。下がってよいぞ、猿」
「はっ。失礼致します」
深々と座礼し、
そしてゆっくりと、だが遅過ぎず、絶妙な速度で襖を引いていき……耳障りにならないよう静かに閉めた。
指先まで神経を使い、如何なる時も礼儀を尽くすーーー基本中の基本であり、忠臣たるもの当然の在り方だ。
今日も御館様の機嫌は上々。
百合が帰還してからは更に勢いを増して生き生きと政策に勤しむ主君を見ているとこちらも活力が湧いてくる。
この時代の頂点に君臨し栄華を極め、平和な世への礎を築いてくれることだろうーーー
「さて、と………」
城での政務や書き物もひと段落し、信長様に書簡を渡したあと。
評判だという三成の指導ぶりでも覗いてみようかと思い立った秀吉は、心地の良い陽射しを浴びつつ廊下を歩き進んでいた。
すると、どこからともなく騒々しい音と声が近付いてきて………
「家康ぅぅぅ!!一緒に遊びに行こうよーっ」
「行かない行かない。絶対行かない。毎日毎日しつこいんだよあんたっ」
ああ、いつものやつだ。
眉間に深い皺を刻み必死に逃げ回る家康と、そのあとを執拗に追いかけ回す小梅の二人組。
好きにやらせておけと信長様は悠長に仰っていたが、城内の秩序を乱す行為を前にして口を出さない訳にはいかない。
「こらっお前等!廊下を走るんじゃないっ!」
「………っ、好きで走ってるんじゃないですよ。見りゃ分かるでしょ」
俺の注意も聞き入れられないほど緊迫した様子で脇をすり抜け、キッと横目で睨んで駆けていく。
行儀の良い家康があそこまで取り乱すとは………随分翻弄されているようだ。
小梅はというと、「ごめんね秀吉さーん」なんて呑気に手を振って標的と付かず離れずの距離を保って追い掛けていった。