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【イケメン戦国】戦国舞花録

第23章 『理由』 ※微R18





広い一室に通されると中には何台もの文机が並べられていて、まさに教室そのものだ。
それぞれの席に着いた子どもを見渡し、丁寧な挨拶を済ませ上座に座した石田は、皆が見えるようこちらに向けて設置した書見台に書物を乗せ、紙面を指差しながらあれこれと説明している。

どうやら週に何回かはこうして寺を訪れ、正仲と交代で文学や算術などを指導しているらしく………
子ども達も真剣な面持ちで聞き入っていた。

一方私はというと、初歩から始めなければならないので特別に正仲が個別指導してくれることになり……
部屋の隅っこで机越しに向き合いマンツーマンだ。
まずは墨汁作りからスタート。硯に墨を擦っていると不思議と精神が落ち着く。


「………正仲、あの子達は一体何なの?一応生徒な訳?」

「生徒、というよりは我が子同然だと捉えております。毎日此処で寝食を共にしているんですよ。
………親に見捨てられた者や戦で家族を失った者など、あの子等は以前まで不遇な環境に置かれていたのです」


引き取り手も無く孤児となり、町中や山中を徘徊していたところを織田の配下によって保護されたという。
不条理な貧困は憎悪と暴力を生むーーー
いつしか反逆的な思想を抱いたり、民を脅やかす存在になりかねない。
よほどの幸運が訪れない限り、荒んだ未来が待ち受けているのは明らかなのだ。

それらを防ぐ為、
保護した幼子達を寺院で預かり学術や礼儀作法などを学ばせ、大人になっても真っ当な人生が歩めるよう自活出来る術を身につけさせる、と。
治安の維持と領国の活性化、なによりも負の連鎖を食い止めるーーー織田が打ち出した政策理念のひとつらしい。


「魔王だの鬼だのと畏怖されておりますが、平和な先の世を願い信念を貫いているだけのこと。本当は情が深く温かな心根の持ち主なのです」

「温かな心根?あの男が?冗談でしょ」

「いいえ、冗談ではございません。
従兄弟として長年付き合いのある私が言うのです。信長様はああ見えても本質はまるで逆なのですよ。
…………貴女も然り」

「え………」


何かを悟っているように微笑む正仲の目元はとても優しげで、何故だか反論出来ずに言葉を詰まらせていた時ーーー
乱暴に障子を開く音が室内に響く。
そこに居たのは、見覚えのある顔だった。



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