第23章 『理由』 ※微R18
「ちょっと、悪いけどそこ退いてっ」
上質な山吹色の着物を靡かせ、廊下の奥から疾走してくる人物ーーー徳川家康。
なんとも鬼気迫る表情だ。
そしてその背後をピッタリとマークしているのは………言わずもがな、笑顔の小梅。
「い〜え〜や〜す〜!待て待て〜!!」
通路の端へ身を退けてやると、
二人はとてつもないスピードで真横を駆け抜けていく。
去った後を振り返り呆れた笑いをひとつ零した私は前方へ視線を戻し、厨までの道のりを再び歩き出した。
…………
まぁーたやってるよ、あのコンビ。
嫌がって逃げ惑う徳川と嬉しそうに追尾する小梅の追い掛けっこは最早日常と化し、ちょっとした名物になっている。
あの子の怒涛の愛情表現は徳川にとって迷惑でしかないらしく、なんとか離れようと日々奮闘しているようだ。
持ち前のポジティブさと容姿を武器に、押して押して押しまくる………
現代ではそうやってターゲットを射止めてきた小梅だが、今回はどうなることやら。
恐らくあの男は相当手強い。今までのようには上手くいかないだろうし、そもそも追い掛けられると逃げたくなるのは男特有の心理だ。そこを心得ておかないと後々泣きを見るかもね。
「………。
失恋する、に三千円」
冷静に分析しつつ、脳内で一人賭博を繰り広げボソリと呟く。
すると、突如ふっと手元が軽くなり
持っていた膳が半分ほど消えた。
見上げると、
サラリとした白銀髪の狭間から覗く、妖美な瞳と目が合い………
そいつの両手には、今しがた私から取り上げたのであろう膳が何客も積み重なっている。
「彼奴等に弾き飛ばされるところだったな。………まぁ頑丈そうなお前ならびくともしないだろうが」
手伝ってくれるなんて親切だな、と思いきや
ちゃんと皮肉のオマケ付き。
今日も安定してる男、明智光秀ーーー