第22章 『衝動』
見入っているとーーー
そのうち俺の存在に勘付いた照月が目覚めもぞもぞと動き出し、蓮もまたゆっくりと瞼を開いた。
顔の向きはそのまま、漆黒の瞳だけがチラリとこちらを捉える。
「あれ……
あんた、もう帰ってきたんだ」
上体を起こし、気怠げに前髪を掻き上げる仕草と物言いはなんとも図々しい。ここの主は俺だぞ。
ーーーけどそんな態度が無性に可笑しくて、
デカいのは背だけじゃねぇな、なんて揶揄いたくなる。実際口に出したら拳のひとつでも飛んできそうだけどな。
「言っとくがな、今日はこれでも遅い方なんだ」
「ふぅーん」
傍で再び眠りに就いた照月の頭を撫でつつ、そう返事をすると。
何の前触れもなく突然、衿合わせを掴み上げられ………
乱れた其処の隙間から覗いている俺の胸元に、蓮がすっと鼻先を寄せてきた。
「女の匂いが、する」
素肌に息が触れてこそばゆい。
まさか嫉妬でもしてるのだろうかと見下ろせば、妖艶な笑みを浮かべる彼女と目線がかち合った。
ーーーそうだよな、お前はそういう女じゃねぇ。
「お前こそ、男と戯れてきたんだろ」
「ふふ、バレた?」
髪を掬って耳に掛けてやれば、
露わになった首筋に残る赤い痕跡ーーー。
「それがまぁ下手な男でさぁ……
苛々して仕様が無いから口直しに来た、って訳」
「は、残念な奴に当たっちまったな」
「ほんと、どいつもこいつも苛々する……
あの小煩い風紀委員の幻聴まで聞こえたし」
「ん?風紀……?」
「……なんでもない。
ねぇ、そんなことより……」
れろ、と胸の中心を舐ぶられる感触。
ーーーゾクゾク、した。
他の男に抱かれてきたばかりだというのに、もはや欲望に喉を乾かせているとは。やはりこいつは獣ーーー
先程の幼い寝顔は見間違いだったのか、とさえ思えてくる。
本音を言うと、政務やら女遊びやらで多少なりとも俺は疲れていた。
腹も減ったし、目を通しておかなければならない書簡だってある。
早々に城へ帰すべきだと頭では解っているものの……
欲に負けた俺は蓮の唇を強引に塞いだ。
障子から漏れる月光に照らされて。
時を忘れるほどに
夢中で身体を貪り合い、
いつの間にか夜が更けていく。ーーー
えっと……
まぁ、あれだ。
つい衝動に駆られて、とでも言い訳しておこうか。