第22章 『衝動』
それは、ほんの一瞬のことで。
人混みの影から
にゅっ、と伸びてきた幼い手は………
網からはみ出ている串の末端を摘むと素早く奪い取った。
「てめぇ藤吉!またか、この野郎!」
怒鳴り声を荒げる店主を振り切り、どよめく町民の合間を縫って逃げていく小さな背中。
ーーー万引きだ。
まさに一目瞭然。
瞬時に走り出し後を追い掛ける。
背丈からして小学生くらいの年齢だろうか……意外と速い。
けどな、私の足に勝てる訳がなかろう。
「待ちな、盗っ人小僧!」
地を蹴るたびに砂埃が舞う。
あっという間に距離を詰め、衿首をむんずと掴み上げてやるとそいつは必死に手足をバタつかせ往生際悪く抵抗していた。
「観念しなよ、あんた代金……」
「うるせぇっ!離せよ!!」
キッとこちらを睨みつける少年ーーーその生意気な顔は、想像以上にあどけなかった。成熟前特有の、高い声音。
どこかで喧嘩でもしてきたのであろう、頬に引っ掻き傷がある。
ボサボサの髪やツギハギだらけの着物など、家庭内の懐事情が垣間見える様相だ。
興味本位、面白半分、といった様子は無く 瞳の奥からは言いしれぬ強い意志を感じた。
・・・・・
これは悪いことなんだと諭すのが真っ当な大人の役目。
けれど。
常識、道徳ーーー
それらの上っ面な正論を掲げたところで、果たしてこいつの心に響くのだろうか?
そう躊躇するあまり、捕まえていた手を緩めしてしまう私は甘いのだろうか。
「………っ、離せっつってんだよ!」
すると、その隙を見計らって私を押し退けたそいつは喉から絞り出したように大きく叫びーーー再び走り去っていった。・・・・・