第22章 『衝動』
ーーーーーーーーーーーー
鼻緒に足先の指を突っ込み、城の玄関口を出る。
安土山の麓へ続く石段を
たん、たん、とマイペースに降りれば澄んだ空気が鼻を掠めて心地が良い。
脇に生えた緑達が優しく揺れているのを目にしながら、また一服でもしようかと懐へ手を忍ばせる。
………ふ、この動作にも慣れたものだな。
ここのところ、私は着物を着て過ごすことが多くなった。
持参してきた洋服だけじゃ事足りず、
今日もこうして和装している。
決してこの時代に迎合しているのではない。ただ“仕方無く着てやってる”のだ。
「………さて。
暇だし散歩でもしようかねぇ……」
石段を全て下り、門から一歩踏み出して
ふぅー……、と空へ煙を吐く。
桜子の居所と無事は確認できたし、
あとはどうにかして織田から姉を引き離さなければとチャンスを伺いつつ、
ワームホールの出現を待つのみ。
いつ現代へ帰れるのか定かじゃない今、
ジッと鬱々してたって事態が進展する訳じゃないし。
空いた時間を利用して戦国ライフとやらを満喫しようじゃないかと開き直った私は、散歩がてら何か食べるものでも買おうかと城下町へ赴く。
そこは相変わらず賑わい活気づいていて、
威勢良く呼び込みをする商人達の声と行き交う町民でいっぱいだった。
「ほうほう………」
わいわいと買い物を楽しむ女子グループの背後に立ちその後頭部越しに、長身を存分に生かして とある甘味屋の商品を覗き込んでみる。
団子か……美味そうだな。
甘いものは好きだが、どちらかといえば今はしょっぱい系が食べたいなー、なんて、何気なく他所の店へ目を向ける。
「お、焼き烏賊じゃん。いいねぇ」
網の上で焼かれた串刺しの烏賊。沸き立つ湯気と共に食欲をそそる匂いがこちらまで漂ってくる。
誘われるようにその店へ近付いていくと……
人混みに紛れ、小さい影が蠢くのが見えた。