第22章 『衝動』
桜子が昔、死に別れた恋人は真田幸村の末裔だと聞いている。
姉妹である小梅や同じクラスメイトだった私はそいつのことをよく知っていたし、そいつが海の遭難事故で亡くしてしまった時の桜子は見ていられないほど憔悴しきっていて………
暫く塞ぎ込んでいたが、周りに助けられ徐々に気力が回復していって。
今ではすっかり“らしさ”を取り戻したというのにーーー
「………どうしたの?二人とも」
突如無言になった私達を不思議そうに見つめる姉。
………そういえば桜子の“当時の彼”のことは詳しく知らないんだっけ。
二学年上で、しかも違う高校に通っていたし
直接会ったことも無いだろうからね。
事情を打ち明けようとしたが
猿飛佐助が居る手前、ペラペラと暴露する訳にもいかず………
ひとまず「なんでもないよ」と、はぐらかしておいた。
「ーーー佐助君。聞く限りでは桜子ちゃん元気にしてるみたいだけど……
えっと……例えばホームシックで落ち込んでる……なんてこと、ない?」
「いや、特にそういう姿は目にしてないなぁ……自由にくつろいでるよ。こないだなんか下着姿で走り回っててさ、強烈だった」
「………そっか」
それまで強張っていた顔がホッとしたように緩んだ小梅は、またいつもの調子できゃっきゃと喋り始め上杉謙信と武田信玄の容姿について興味津々に尋ねてる。
曲がりなりにもこいつは桜子の姉だ。
真田幸村と出逢ったことにより昔の悲しい記憶を呼び起こしてしまうのではないか、と心配していたのだろう。
けど、どうやら当の本人は特別変わった様子を見せず自由気ままに生活しているようで……
とりあえず無事で良かったと、私もひと安心していた。