第22章 『衝動』
「では……改めて。
桜子さんは今、越後の春日山城というところで生活を送っていてーーー」
コホン、と咳払いをすると
猿飛佐助は私達の目をそれぞれ見ながら桜子の状況について説明を始めた。
ひとつひとつ解り易く、丁寧に。
そしてーーー
話に耳を傾けているうちに、
詳しいことが明らかになっていく。
京の山林で桜子を偶然にも発見し保護した猿飛佐助は、主である上杉謙信の元へ連れ帰り……
上杉直々の意向により、表向きは家所縁の姫として春日山城に住まわせている。
姉からは敵方の忍だと聞いていたが、まさか上杉謙信に仕えていたとは……
現在は和陸している為、争いは鎮まっているそうで。
城には他にも武田信玄など、
さして歴史に興味のない私でも知っているほどの有名武将が居住しているようだ。
猿飛佐助と同郷である桜子は大して警戒もされず、友好的に歓迎されているらしい。
怪我も無く、無事であることを知り
ほっと胸を撫で下ろす。
桜子も同じく私達の行方を心配しており、姉宛に手紙を書き猿飛佐助に託していた。
「はい、これ」
四つ折りになった手紙を受け取り、
さっそく広げて内容を読んでみる。
自分が置かれている現状を伝えようとする、稚拙な文章と汚い字ーーーうん、確かにあいつの筆跡だ。
「桜子さんって面白い子だよね。宴の最中歌ったり踊ったりしてさ、初対面にも関わらず皆を盛り上げていたよ」
「……へぇ……」
想像できる。
あのお調子者が酒の席で暴れまくってる姿が………。
現代ではいつも私がフォロー役だったからな。大変なんだよ、あいつの介抱は。
「しかも剣術もかなりの腕前なんだね、彼女。
幸との一戦は見応えあったなぁ……
あ、“幸”って真田幸村のことなんだけどね」
ーーー………
“真田幸村”
名を出された瞬間、
手紙を持つ手がピクリと揺れる。
隣では、小梅の表情から笑みが消えていた。