第22章 『衝動』
“猿飛佐助”ーーー
ついに現れやがったか。
足裏を板張に叩きつけるように、ドタドタと廊下を歩き進む。
私は今よほど険しい顔をしているのだろう、通りすがりの者達が恐れおののいて避けてる。
歩行スピードについて来れない姉は、少し距離が空いた後方から必死に追い掛けてきていた。
だだっ広い城の中。
右へ左へと、何度か角を曲がりーーー
目当ての部屋へ辿り着いたと同時に
スパン!と、勢いに任せて襖を開け放った。
「………あっ、蓮ちゃん来たぁ」
室内には、
同じく招かれたのであろう、きゃっきゃとはしゃぐ小梅とーーー
畳に座して茶を啜っている、眼鏡を掛けた男。
如何にもな忍び装束。
タイムスリップする直前に見た時は白衣だったが、これが戦国時代仕様なのだろう。
「初めまして………でもないか、厳密には。
君が、百合さんの妹の……」
言い終わるのを待たず、感情の抑えが利かなくなっていた私は奴の胸ぐらを思いきり掴み上げた。
茶受けに置かれていた湯呑に振動が伝わり、危うく倒れそうになっているのが視界の端に映る。
「挨拶なんかどうでもいいんだよ。誰のせいでこんなことになってんのか分かってる?」
ーーーーーー………
ピン、と空気が張り詰める。
ほんの数秒ののち、奴はゆっくりと口を開いた。
「…………。
桜子さんから諸々の事情は聞いてるよ。君達にとってはとんだ災難だったと思う。けど……百合さんを再びこの時代へ導いたこと、俺は後悔してない」
「は?他人の癖に勝手なこと言わないでよ」
「………そう、だね。確かに他人だ。でも……
妹である君よりも彼女の気持ちを理解してるつもりだよ」
・・・・・
装束の衿合わせを今にも破れそうなほど鷲掴みにされているというのに、払い除けもしないし表情ひとつ変えない。
腰を屈め顔を至近距離まで近付けて凄んでる私に対して、奴は狼狽えもせずキッパリと言い放った。
冷静に、そして真剣な眼差しをレンズ越しに向けられる。
「…………」
「…………」
互いに目を逸らさないまま、無言で視線をぶつけ合っているとーーー
姉の手が、自分のそれに重なった。