第5章 『抑圧』
フードがハラリと頭から取れる。
「……………っぶねー…………」
「…………………………」
何が、起こったの
桜子の後頭部と背中には幸村の手が添えられており、抱き締められるような形で支えられていた。
倒れそうになった刹那、腕を引かれたところまでは覚えている。
そのあとは、あまりにも一瞬の事でーーーーー
「おい、気を付け…………」
桜子の肩から幸村が頭を上げると、お互いの顔が至近距離にあることに固まった。
(あ……………)
川のせせらぎも、風も、周りの音も、全てプッツリ止まったかのように
なにも聞こえない。
視線が絡み合う
唇が、近付いてゆく
どちらからともなく………
(………………………っ!)
駄目!!!
バシャン、と一際高い水飛沫が舞い上がった。
突き飛ばした先には座るような体勢で倒れた彼がこちらに眼を見開いている。
「…………やめて………」
「さく…………」
「もう、やめてよぉっ………………」
震えて言葉が掠れる。
川からあがると土手に揃えていたスニーカーを掴み裸足のまま走り出した
「はぁっ、はぁ……はぁ………」
ここから逃げなきゃ。早く、早く、
幸が見えなくなるまで。
取り残された幸村は、立てたままの自分の膝にいつしか流れ着いた木の葉を只々、見つめていた。