第5章 『抑圧』
「まぁ………なにかしら、あれ……」
「変わった着物ねぇ……」
「南蛮からの使者か………?」
朝よりも人々が多く活動している晴れた午後。
通りを歩く女が好奇の目に晒されていた。
顔を指されないようにパーカーのフードを被っていたのだが。
(いかん………やっぱり怪しまれてる………)
早く帰らなきゃと橋を急いで渡っていると木造のその上を歩いてくる小さな足音。後ろを見ると、さっきまで暫く一緒に遊んでいたあの犬が舌を出して嬉しそうに息を弾ませていた。
「………付いてきちゃったの?」
触ろうと、ポケットに突っ込んでいた手を出した時、入っていたスマホも共にこぼれ落ちた
「ああーーー!!」
コン、とバウンドすると橋の際から落下していってしまった。
「……………なにやってんだ、あいつ」
探し歩いているうちにやっと見つけた本人を凝視する。
膝まで川に浸かったまま屈みながら手をバタつかせて頭巾のようなものを被った、傍目には得体の知れない女。
側にはよく知った犬までいる。
「魚でも捕ってんのか?熊じゃねーんだから。」
今一番会いたくない声にハッとする。
…………なんでまたこんな所まで来るの。
「うるさいなぁ、ほっといてよ」
水面から目を逸らさないまま答えると、バシャバシャと飛沫をあげて幸村が川に入ってきた。
「なんだよそれ。村正まで連れて」
「……むらまさ?」
村正と呼ばれたその犬は、彼に会えて嬉しいのかその足元で飛び跳ねている。
「幸の犬?」
「まぁ、飼ってる訳じゃねーけどな。なんか懐いてる」
「ふーん……とにかく、私はスマホ捜索で忙しいの。先に帰ってて。」
「すまほ?……ああ、あの小さい板か。」
そう言いながら水の中に目を凝らしている。
(……人の話聞いてんの!?帰れっつってんのに………)
優しくしないで。
痛い。
痛いよ、胸が
「あ」
幸がガシッと拾い上げた手には私の目当てのものが握られポタポタ滴が垂れていた。
「あー!これこれ!ありが………………」
瞬間、一歩前に進んだ足が滑り、自分の体がグラリと後方に傾いてゆく
(転ぶ……………っ)