第22章 『衝動』
廊下を一心不乱に突き進めば、背中に浴びせられる黄色い騒ぎ声は次第にどんどん遠くなっていき………
そしてーーー
二人を連れて無事に自室へと避難した私は。
持参した本を鞄から取出し、心穏やかに読書でもして暇を潰そうとしていたのだけれど。
せっかく戦国時代に来たんだし城下町を案内してあげる、と意気込んだ姉に誘われ………
最初のうちは断っていた私も
そこまでしつこく言うのなら、と渋々受け入れた。
「行ってあげてもいいけどさ、観光には興味無いからね私」
ぶつくさ文句を垂れつつも。
身につけていた洋服をさっさと脱ぎ捨てると、
小梅から手渡された襦袢と着物を広げ、早速袖に腕を通す。
現代で一時期、料亭で中居のバイトをしていた経験があるので着付けはお手のものなのだ。
「それにしても蓮、こっちの時代でも女の子達にモテモテなんだねぇ」
散らばった私の服を拾い、膝の上で丁寧に畳む姉はそう言ってにこやかにこちらを見上げる。
「マジで迷惑なんだけど。女が女にトキメくとか………意味分かんないよ」
好かれる、って良いことだよ?同性に憧れる女の子はいつの時代にも居るんだねーーー
そんな返事が戻ってきて。
いや、好かれなくて結構です。と心の中で淡々と一刀両断した私は後ろに回した手で帯を調節し、着付けを仕上げた。
「わぁーっ、蓮ちゃんの着物姿格好良い〜!似合う〜!極妻みた〜い!」
某任侠シリーズのヒロインと重ねているのかーーー
ぴょんぴょんと騒々しく跳ねて褒めちぎってくる小梅を無視し、鏡台に目をやれば。
漆黒の生地には刺繍された牡丹の花。そばには黄金色の蝶が舞っていて。
上品で洗練されたシックなデザインなのだが、私が着るとなんだか高圧的に見えるのは気のせいだろうか。
じっ……と鏡の中の自分を凝視していたら
そろそろ行くよー、と催促の声が掛かり。
気怠げに踵を返すとゆったりした足取りで部屋を出た。