第22章 『衝動』
遠くに見えるは、談笑しながら歩いてくる小梅と姉の姿。
「あー………私、ちょっとあの人達と約束があるからお茶はまた今度………」
やっとこの苦境から抜け出せるっ………!
二人に助けを求める為、騒ぎ立てる集団の輪を掻き分けていると………
私の無駄にデカい図体に跳ね飛ばされたひとりの女中が足元のバランスを崩し身体が倒れていく瞬間が目に入った。
「危ない!」
このままでは床に叩きつけられてしまう。
脇目も振らず手を伸ばし、
彼女の腰を思い切り引き寄せて自分の腕の中に抱き込み………
間一髪ーーーそうひと安心していると、
女中がおもむろにこちらを見上げる。
「あ…ありがとうございます……」
「いや、こっちこそ悪かった。怪我しなくて良かったよ」
「おっ…お気になさらないで下さい!
……それよりも……あの……あの……蓮様の勇ましいお顔がこんなに近くで拝見できるなんて………」
みるみるうちに頬を赤く染め、なんだか恋する乙女のようにキラキラと煌かせる瞳ーーー。
ーーー………
この反応………
嫌な予感がする。
一方、他の女中達からも同様の眼差しを送られ………
羨ましげに騒ぐ者や惚れ惚れと感嘆の溜め息を漏らす者まで居る。
ーーーやばい。この流れはやばい。
これじゃ本当に現代での悪夢の繰り返しだ。
あたしゃ女にモテたって嬉しくないんだよーーーー!!
ゾッと震える背筋に冷や汗をかきつつ、腕の中の女中を早々と引き離して逃げる準備をしていると。
「あ〜、蓮ちゃんてばまぁたハート泥棒してる〜」
きゃはは、と揶揄い口調な小梅と
「相変わらずだねぇ」なんて、にこにこと呑気に笑ってる姉がすぐそばまで来ていて。
腹立たしいが今は一秒でも早くここから消えたい一心だった私は二人の手をガシッと掴み取り………
自室へ向かって競歩の如く、場をあとにした。