第22章 『衝動』
「……あのさ、」
「んー?」
「昨日のこと誰にも言ってないの?」
「ああ」
「なんで?
“御舘様”に恨みを持つ女がこうして近くをうろついてんだよ?
あんたあの男を心底慕ってるんでしょ。今のうちに悪い芽は摘んでおこう、とか思わない訳?」
「思ったさ。最初はーーー
………あ。」
突然会話が途切れたので、
ふっと横を見ると。
ようやく探し求めていた書物を発見したようでーーー
視線の先には、格子模様が描かれた緑の背表紙。
それは一番上の段にひっそりと置かれていて。両脇に並ぶ他の書物の狭間からひょい、と引き抜き豊臣に手渡してやった。
「ありがとな。
ははっ、高い所から物を女に取って貰うのは初めてだ。んー……背丈は家康ぐらいあるよなぁ」
「初体験おめでとう。
知らぬ間に無駄に育っちゃったもんでね」
「卑屈な奴だなぁ、まったく……
だが、悪い芽じゃなさそうだ」
途端、
くるり、と踵を返してその場を離れていき………
引戸の辺りでこちらを振り返る。
「蓮、お前には信長様を殺せない。
………そんな気が、するんだ」
「………なにそれ。あいつがどんなに強かろうが殺ろうと思えばいつだって………」
「力の差をどうこう言ってるんじゃない。性分の問題だ」
「え………」
「なんとなく、の勘だけどな。人を見る目には自信があるんだよ、俺」
私の何が分かるんだーーー
と、反論しようとするも。
ひらひらと手を振って去っていく後ろ姿を見つめながら、タイミングを失った私は唇を一文字に結んだ。
勘、なんて。
そんな根拠も糞も無いもの信じてあとから後悔したって知らないから。
後悔したって………………
………………
………………
…………あれ。
なんだか調子が、狂ってるような。
こそばゆいとでもいうか………
うーん、どう表したらいいものやらーーー
でも
後味の悪さは、不思議と無かった。