第21章 『勝敗』 ※R-18
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私は毎日運動やトレーニングを欠かさない。
習い事やモデル時代の名残りだけれど……
どんなに忙しくても、
合間を縫って少しでもいいから必ず行う。
誰にも私のペースは崩させない。
「あと三周………」
耳に装着したイヤホンから流れるテンポの良いサウンドは、寝起きの足を軽快に弾ませてくれる。
ーーーあれから私は……
早朝、何事も無かったかのようにさっさと自室へ戻り。
持参してきた部屋着に着換え、
こうして城の周辺をジョギングしている最中だ。
空を見上げれば濃い水色が広がっていて、名も分からない鳥が飛んでいくその先には緑の山々があり。
澄んだ空気を胸一杯に吸い込めば、
ニコチンで汚染されてる肺も浄化されそうな心地良さが染み渡っていく。
「いいねぇ……今度、森林浴でもしに行こうかな……」
暖かい日の光を浴びながら、
後頭部でひとつにまとめた髪を靡かせ風を切って走っていると。
たっ、たっ、たっ、と地を蹴る私の規則的な足音と共に、知らぬ間にもう一人のそれが重なっていたようで。
音楽を聴いていたせいで最初は気が付かなかったが、程なくしてーーー
じぃー……と見上げてくる妙な視線を感じ、斜め下に目をやると。
「あっ、やぁっと気付いてくれたぁ〜」
柔らかいウェーブヘアを揺らせて並走する小梅が、にこにこと幼い笑顔をこちらに向けていた。
何か喋ってるな、と思いイヤホンを片耳から外すとお馴染みの甲高いアニメ声が鼓膜へ届く。
「ねぇねぇ〜蓮ちゃん昨夜はどこへお出掛けしてたの?」
「………。あんた、起きてたの?」
「寝てたよぉ。でも、蓮ちゃんの動く気配がしたから覚めちゃって」
………相変わらず五感が冴えてるな。
きっと布団の隙間から薄目を開けて私の様子を伺っていたのだろう。
尾行はされなかったようだが……
可愛い顔して侮れない女だ。