第5章 『抑圧』
“佐助から色々聞いたよ。あんた馬鹿騒ぎ起こしてるんだってね。私は小梅の相手だけでも大変なんだから、次のワームホールまでこっちに来ないで。じゃ。蓮”
“桜子ちゃん元気~?あのねー、私帰らないかも~。 おねえちゃんより”
「………………………」
なんなの、あいつら
なんとも言えない感情が込み上げて舌打ちをしていると、佐助がワームホールの説明を始めた。
専門用語を絡めてくるので頭がパンクしそうになったが、要は次いつ開くかの研究が困難を極めているということだった。
「ごめん。急いで分析進めるから待ってて欲しい。………………あのさ…………話変わるんだけど、いいかな?」
「うん?」
「その指輪…………さ、彼氏からの?」
さっき鎮めたばかりの心臓が再度飛び跳ねた。
……………気付かれてたんだ。
そういえば確かに安土に出発する時、佐助の様子がおかしかった気がする。
「……あっ……こ、これは、あの……あれあれ!ファッションリングってやつ!やだなぁー、薬指に付けてる人なんてフツーにいるっしょ!」
ああ、またこんな言い逃れをする私はなんて愚かなんだろう。
だけど嘘が止まらないの。
「………………そう……。……あの……………いや、何でもない。じゃあ、また城で。」
何かを言い掛けたようだが佐助はそのまま軽やかな身のこなしで雑踏に溶け込み、行ってしまった。
「はぁ…………」
腰を折り曲げて頭を垂れていると、ストンと隣に座る幸の気配がした。
「あれ、佐助は?」
「んー、先に帰ってるって。」
「あっそ。………………あっ、お前頭に虫ついてんぞ」
「えっ!?」
驚いて髪の毛を掻き分ける。
「やだやだーっ!キモいっ!ねぇ、早く取ってよー!」
「んな騒ぐなって。えーと、どれどれ……」
幸が私の頭を探り始めたと思いきや、髪の毛に何かが差し入れられる感触があった。
スッと手鏡を出される。
鏡の中には、耳の少し上辺りに桜の髪飾りが付いた自分が映っていた。
(……これ、露店で見てたやつ………もしかして買いに行く為に席を………?)
「……………む、虫って………」
「嘘」
なんて綺麗な嘘。
私の邪悪な嘘とは真逆の、純粋な。
心が揺れる。
これだからずっと二人きりで過ごしたくなかったの。
その笑顔で、声で、手で触れないで。
お願いだから