第5章 『抑圧』
「……………美味しい!」
「だろ?ここの黒蜜は絶品なんだ」
赤い布が敷かれた長腰掛に座りながら、評判だという黒蜜団子に舌鼓を打つ。
素朴で優しい甘さが丁度良い。いくらでもいけそうだ。
「あ、そうだ。これ……」
帯に挟んでいた手拭いを取ると幸村に差し出した。
初日に戦った時に借りてそのままだったのだ。
もちろん洗濯洗剤など無いので、佳世に教えて貰った通りに米の磨ぎ汁で洗ってみた。なんてエコな使い道だ。
「これさぁ、隅っこに模様入ってるけど何?この丸いの六個……お団子の絵?」
「はぁ………どんだけ食い意地張ってんだよ。そりゃ家の家紋だ」
「家紋ー!?」
三つの丸が二列に並んだ割とシンプルな図だ。
この家紋には意味があるらしく、幸村が熱弁をふるっていたのだが私が持ったままだった団子から黒蜜がツルっと滑り落ち、その先にある手拭いに茶色い染みが出来た。
「あああー!!やっちゃった………せっかく洗ったばっかなのに~……」
「なにやってんだか。……もうそれ、やる。」
「あはっ、ごめーん……………ん?」
「楽しそうだね、御両人。今日はデートかい?」
ふいに目の前に現れた佐助が、幸村の皿から一つ団子を摘まみながら冷やかしてきた。
「でえと?」
「佐助ー!やっと帰って来れたんだ!ありがとう」
これ、と一枚の紙を渡される。
「百合さんからの返事、持ってきたよ。いち早く桜子さんに渡したくてね。……ビックリしたんだけど、蓮さんと小梅さんも安土城にいたんだ。」
「えっ……………ほんとに!?良かったぁ…………無事だったんだ…………」
「直接色々話してきたよ。個性豊かなお姉さんとお友達だね……。まぁ、読んでみてよ」
折り畳まれた手紙をカサカサ開いていると、
「俺、ちょっと用足してくるわ。」と幸が席を立って行った。
気を利かせてくれたのだろう。
「えーっと、なになに………」
綺麗な字で連らねてある文を黙読すると、
私達三人がこの時代に来てて驚いている事。
織田信長を本当に愛していてもう現代に戻る気はない事。
せっかく追いかけてきてくれた私達に申し訳ないとの謝罪など、丁寧な文章で書かれていた。
「はぁー……やっぱ揺るがない、か………。」
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