第5章 『抑圧』
落ち着け。
落ち着け。
平常心、平常心
何度も心の中で繰り返し、胸に手を当てる
(あ…………)
そう自分を落ち着かせていると、近くに広げられた露店に並んでいる小物が目に入った。
(これ、可愛い)
桜の花を型どった髪飾り。
ピンク色の花弁の縁に丸く小さいビーズのようなもので囲んであるデザインだ。
魅入られるように引き寄せられた。
一方の幸村は、温もりの残った手を暫く見つめて放心していたが、桜子がいない事に気付き辺りを探していると露店の前でしゃがんでいる本人を見つけた。
後ろから覗き込むと、ひとつの髪飾りを手に取りジッとしている。
(へぇ………普通にこういう女っぽいのが好きなのか)
「やめとけやめとけ、こんなん付けてもお前の粗暴ぶりは隠しきれねーよ。」
こちらを振り返った彼女はムッと膨れていた。
先程の事もあり、なんて話し掛けたらいいのか分からずこんな憎まれ口しか出てこない自分を本気で恨む。
「………うるさいなぁ。欲しい訳じゃないから」
口を尖らせてそっぽを向いた桜子は髪飾りを元の位置に置く。
その右手の一部に日の光が反射した。
「……あれ…なんだ、それ。…………輪っか?」
「…………………っ」
思わず反対の手で隠してしまった、右手薬指のそれ。
いいんじゃない?隠さなくたって。
ここで話してしまえば全て済む。
「…………別に、ただの飾りだから。…………それよりもさー、さっき言ってたお団子屋どこなの?早く食べてみたいんだけど」
「まぁだ食うのかよ~。ほら、あっちにあるから、行くぞ」
何故だか言えず、はぐらかしてしまった。
まるで浮気がバレそうになった苦しい言い訳みたいで馬鹿馬鹿しい。
(なにやってんだ、私………)
額を手で押さえ立ち上がると幸村の後に付いて歩きだした。