第21章 『勝敗』 ※R-18
「やめろ!!………こらっ暴れるな!!
政宗、そっちの腕押さえろ!」
「はいはい。
しっかし凄ぇ力だなぁこいつは」
信長に飛び掛かろうとした蓮だったが、駆け付けた秀吉と政宗によって両脇を固められーーー
一方の信長はというと
たじろぎもせず、皆が騒然とするなか飄々と盃に口を付けている。
「離してよ。一発目殴ってやんなきゃ気が済まないから」
ーーーなにが童だ。
人を小馬鹿にして。
あんたに何が分かる!
男二人に封じられた身体を懸命に捻って抵抗していると、姉が慌ててそばにやって来た。
「蓮、やめて!」
「無理」
「お願いやめて……!
ね、部屋に行ってちゃんと話しよ?」
「無理」
「お願い……」
私にすがるように抱きついてジッと見上げてくる潤んだ目の縁からは、涙が溢れていて………
程なくして、
失いかけていた自分の理性が徐々に戻ってくるのを感じーーー思わず舌打ちをした。
・・・・・
はぁ。
昔からそう。
姉貴に泣かれると弱いんだよなー………
「……分かったよ、分かったからさぁ……」
いつの間にやら、
怒り狂っていた筈の私は
泣きじゃくる姉を宥める羽目になってしまいーーー
気まずそうに声を掛けてきた女中によれば、どうやら酒の蓄えも底をついたらしく。
こうして終始混沌としていた飲み比べの勝負は引き分けのまま宴はお開きとなったのだった。
ーーーーーー
「………あ」
姉の背中をさすりつつ部屋へ戻ろうとしていた時、大事なことを思い出し……
ポーチから取り出した“あるもの”を口内に放ると、近場にあった徳川の膳から湯呑を奪い
ゴクリと茶を喉に流し入れた。
………危ない危ない。
忘れるところだったよ。
勝手に茶を取られてムッとしていた徳川は“あるもの”を見た途端目を細めた。
「蓮……その粒、何?あんた今……何飲んだの?」
「えー?
ーーー御守……かな」
「は………?」
意味ありげに謎めいた笑顔を一瞬浮かべ、広間を出て行く蓮の靡く黒髪は妖しく美しくーーー。
家康は、訝しげな表情で暫くその場に佇んでいた。