第21章 『勝敗』 ※R-18
ぎゅうう、と抱き付き密着する小梅を必死に引き剥がそうと悪戦苦闘する“家康”と呼ばれたその男。
徳川家康ーーー
言わずもがな、
江戸幕府の初代将軍。
戦乱の世に終止符を打ち
平和な時代をもたらした戦国三英傑のひとり。
黄金色の頭髪がふわふわと、
甘めな顔の造り。
「家康のお姫様になったらねぇ、まずは新婚旅行に行ってぇ……あとはぁ……」
「勝手に話進めないでくれる?離してって言ってるのが聞こえないの?」
「えーっと、そうだなぁ……一年間くらいは恋人気分を味わうのも良いなぁ……」
「ねぇ!人の話聞きなよ!」
徳川は苛々を滲ませながら抵抗するも
目を輝せ妄想を語る小梅にまとわりつかれ、脱出出来ずにいる。
未来の天下人も形無しだ。
あ〜あ。完全にロック・オン・・・・・
この子は昔からそう。
狙いを定めたら猪突猛進、すっぽん並に離れない。
「あんた……蓮だっけ、黙ってないでこの子どっかへやって。さっきからずっとこの調子なんだから」
「………。……ご愁傷様。」
「は……?なにそれ……あっ、ちょっと待ちなよ!」
小梅の魔の手から逃れられず助けを求めてくる徳川を見捨てて踵を返しスタスタと立ち去る私は、憐れみと面倒臭さを感じ深い息を吐いた。
まったく騒がしいったらありゃしない。
もしかして現代に帰らないとか言い出すんじゃないだろうな。
………有り得る………
女中が置いた膳の前に座り、
煙草の箱を指で弾き
抜き出したそれの先端に火を付ける。
目の前には純和食の豪華な料理と酒器。
意外と美味しそうだな、少しくらい食べてやるかーーーなんて思い 煙を吹いていると、
隣からジッ……と私を凝視する男が口を開いた。