第20章 二人目の主人公編 『到着』
そうそう、
確か織田に“猿”って呼ばれてた。
ーーー豊臣秀吉。
織田信長を慕い、気に入られ
本能寺の変ののちに天下統一を成し遂げた。
農民の家に生まれながら出世街道を駆け上がった成功者。
…………へーえ。この男が。
ふぅーん。
女達が我先にと群がりそうなーーー見事に整った顔立ち。
織田との一件があったせいか、
私に強い敵意を剥き出しているようだ。
忠誠心の高さが見受けられる。
………ちょっと弄ってやろうか
「私からも聞くけど、あんた何しに来たの?出歯亀?
…………それとも一緒に混ざる?」
政宗にの肩に頭を乗せ揶揄うように笑って尋ねる蓮を、
一層険しくなった秀吉の眼が捉える。
「……ふざけるな。
お前が宴に出ないから百合が心配してるんだ。だから迎えに来た。それだけだ」
「アハハ、すげー恐い顔。」
長い前髪を掻き上げて愉しげに喉を鳴らすと
サッと鞄の中からポーチを取り出し、共に灰皿も手にして腰を上げた。
「姉貴の為にわざわざご苦労様。仕方無いから行ってあげてもいーよ。案内して」
下着がぎりぎり隠れる程度の箇所でボタンが留まっている開いた胸元を気にもせず、
揺れるカーディガンの裾から伸びたスラリとした長い両脚が襖へと軽快に歩き出す。
「お前そんな格好で………っ!今すぐ着替え…」
「ほら、連れてってくれるんでしょ?早くして」
狼狽える秀吉を尻目に通り過ぎ、
颯爽と廊下へ出て行くその後ろ姿は挑戦的で、好戦的だ。
「なんなんだ、あの女……
政宗……もっと警戒しろ。嫌な予感がするんだ」
「そうか?俺は面白そうな予感しかしねぇけどな」
二人の男はそれぞれの胸中を交錯させーーー
振り返り手招きする蓮の妖艶な笑顔を、見つめていた。