第20章 二人目の主人公編 『到着』
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「蓮ちゃん、ほんとに行かないの?」
「うん、パス」
身につけていたロンTとスキニージーンズを無造作に脱ぎ捨てながら即答する。
一通り城の案内に連れ回された後ーーー
宴の頃合いとなった今、
あてがわれた部屋では
着物に着替えた小梅が残念そうに眉を下げ私の様子を伺っていた。
宴なんて出る気分じゃない。
そもそもなんでこんなところで生活する羽目になってんだか。
…………まぁこの時代にいきなり一人で暮らすなんて難しいだろうけど。
「………じゃあ私行ってるね?三成くんが廊下で待ってるから」
「んー。じゃーね。」
ーーー
襖が閉まるのを確認すると
鞄から取り出した黒いロングカーディガンを下着の上から羽織り、
カチリとライターのノック部を押し煙草に火を付け
ふぅー……と天井に向かって紫煙を吐き出し。
スマホを手に、繋げたイヤホンを耳穴に装着する。
指で画面を操作して選曲後、畳に寝転がり瞼を伏せた。
・・・・・あれはいつだったっけ。
そうだ……三ヶ月くらい前かな、京都へ旅行中に行方不明になった姉が発見されたのは。
それまでは正直もう見つからないんじゃないかと諦め掛けてたから、発見の報せを聞いた時は図らずも号泣してしまった。
ところがどうだ。
退院したかと思えば“信長様に逢いたい”とか奇妙な発言を繰り返す始末だ。
最初は頭がイカれてんのかと心配した。
だけど様々な事を細かく克明に、真剣に語る姉を見ているうちに
もしかして本当に本当なのでは………、と徐々に思い始めていった。
戦国時代で色々と助けて貰っていたという男ーーー猿飛佐助と定期的に連絡を取り合っていて………
ある日姉は嬉しそうに言った
『もう少しであっちへ帰れるの』
ーーー冗談じゃない。
かなり揉めたが、全く融通が利かず頑なに意思を曲げない姉の態度に手こずった私は一旦、折れた振りをした。
直前に無理矢理力づくで引き留める為に。
例えまかり間違ってタイムスリップに巻き込まれたとしても。