第17章 ユー・セイド・“グッド”
ああ、竹刀を振り下ろすこの細っこい腕は容易く牙の餌食となり血が飛び散ってーーーそこらにある葉を真っ赤に染めるのだろうーーー
幼いながらも、その瞬間俺はそんな事を考えていた。
でも、予想は外れたんだ。
「……………!!!」
瞬く間に視界を遮った、灰と白の毛並みーーー。
自分が生まれた頃からずっと一緒で、
家族にも等しいそいつ。
「村正………!!」
弁丸を庇うように両者の間に割って入った村正は、勢い良く地を蹴り獣に飛び掛かっていき、喉元に喰らいついた。
大型な図体の二頭は、地に転がり激しく揉み合い始めーーー
甲高く悲痛な鳴き声を上げる敵方を容赦無く攻める村正が、とどめを刺そうとした時………
「待て。もういい、そこまでだ」
そう指示が聞こえ、反応した村正が攻撃をやめるとーーー
戦意を喪失した獣は尻尾を丸め、すごすごと退散していった。
「楓!紅葉!弁丸!」
頃合いを見計らったように木々の陰から父上と母上がこちらに出て来てーーー気付いた途端安心した姉上達はわんわんと泣きながら抱きついていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみにこの件についての裏話を暴露されたのはつい最近だ。
村正の嗅覚を頼りに、割と早くに俺達を発見した両親は面白がって密かに尾行していたそうだ。
あの獣と俺達が出くわした時、母上は流石に慌てて助けようとしたのだが父上に「まだ手を出すな」と止められたらしい。
特に俺がどんな行動に出るのかを見たかったようだ。
年端のいかないガキだったっつーのに……
厳し過ぎんだよ、父上は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーー………」
背後には、鼻水をすする姉達と両親の優しい声。
助かったんだ・・・・・とホッとする一方、
バクバクと収まらない鼓動。
振り下ろしかけていた竹刀は未だ握ったまま。
緊張が解けず、固まっていた。
するとーーー