第17章 ユー・セイド・“グッド”
どうしよう………どうしよう………
この“どうしよう”ばかりが何遍も何遍も脳内をぐるぐると渦巻く。
強い姉達が泣く程の相手に、自分が太刀打ち出来る訳が無いーーー
窮地に立たされ苦悩していると、
猛然と吠えたてられ弁丸の心臓がドクンと鳴った。
「…………」
こめかみから一筋の汗が流れていく………
荒々しく威嚇し、凶暴さが増していく獣の姿ーーー
味わった事の無い危機感。
ここに姉を残して逃げられない。
連れて逃げたとて、必ずや追われ………噛み千切られるだろう。
戦っても負ける。
逃げても負ける。
どちらを選択しても結果は同じ。
さぁ、どうする?
父上だったらきっと……
父上だったら…………
一刻の猶予を争う緊迫した雰囲気が漂う中ーーー
弁丸は、帯の狭間から滑らせ取り出した竹刀を相手に向けた。
「………父上だったら、きっと、こうする」
前者を選ぶ。……絶対に。
・・・・・
ピリリ、と空気が張り詰める。
口元から涎を垂らし、
悍ましい形相でゆっくりと接近する獣の迫力たるや・・・・・
身の毛がよだつ。
血の気が引いてく。
膝はがくがくと揺れ、竹刀を握る汗ばんだ手は震えが止まらない。
潤んだ瞳の縁からは、溜まった涙が落ちそうになる。
いざ対峙してみるも、怖くて堪らない。
けど、
けどーーー
“立ち向かう勇気を持て”
“弱虫弁丸!”
怖がってばかりじゃ一生、姉上の言う通り弱虫のままだ。
負けると分かっていても、立ち向かう勇気を捨ててしまっては父上との約束が嘘になる。
それだけは………嫌なんだ。
「……………」
唇をギュッと締め・・・・・
足を前へ強く踏み出し、相手の間合いに入りーーー
腕を振り上げ、渾身の一撃を放った
「うあああああ!!」