第17章 ユー・セイド・“グッド”
「おい」
呼吸する毎に上下していた小さな肩にスッと手が置かれ、見上げるとーーー
姉に甘く、男の自分にはいつも厳しくて……だけど、この世で最も尊敬してやまない父上が、
温かく柔らかに・・・・・微笑んでいたんだ。
「よくやった」
ーーー・・・・・
「………でも…弁丸、勝った訳じゃ………」
「大事なのはそこじゃねぇ。お前は自分より強い奴が相手でも、姉ちゃん達を守ろうと盾になって武器を振り上げた。勝ち負けよりもまずその意志の強さが重要なんだ」
「……父上……」
「よくやったな」
わしわし、と髪の毛を掻き回す大きな手。・・・・・
ーーー俺はその日、生まれて初めて嬉し涙ってやつが出たのを覚えてる。
寒くもなく暑くもない、肌心地の良い
皐月のとある日の、記憶ーーー。・・・・・・・・・・
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「……………んで、実はあの時おめー小便漏らしてたんだよな〜。恥ずかしがって桜子の後ろに隠れてさぁ。“母上〜”っつって」
夕餉時、猪口を片手に盛大に大笑いする赤ら顔の父上を、俺は飯を頬張りながらも横目で睨み付けた。
「うっせーぞ、父上。そんな昔の話持ち出して……だいたい飲み過ぎなんじゃねーの」
普段真面目で厳しい父上だが、たまに深酒するとこうやって昔話に花を咲かせては上機嫌に笑い倒している。
俺の情けなかった幼少期を蒸し返しやがって……
女共に知られたらどーしてくれる。
母上と姉上達も一緒になって俺をからかって笑ってるし………くそっ、酔っ払い家族め。
………………
でも…………
この家族は自分にとって一番大切な、かけがえの無いもの。
幸せな、皆の笑顔を守りたい。
あの日から数年経った今ーーー
鍛錬を積んで、心身共に強くなったといえど
俺は元服前でまだまだ子供だ。
酔いが醒めて明日になればまた厳しい父上の元で様々な事を学ばなければならない。
ちょっとやそっとじゃ俺を褒めない父上。
だけどいつか、誰から見ても立派に、一人前になってみせる。
そしたら…………
そしたらその時はきっと あの頃のように微笑んでーーー
「よくやった」
って、言ってくれる。
完