第17章 ユー・セイド・“グッド”
行く手を阻むかの如く、
四肢で地を踏み締めーーー射るような眼光を放つ。
犬なのか……それとも狼なのか……
見分けが付かない程の、野生的で大柄な体躯。
「「「……………」」」
物々しい風貌に躊躇していたが、一拍置いて楓と紅葉は着物の帯から竹刀を抜いた。
「大丈夫……これでやっつけるもん」
「うん。絶対、勝てるよ」
己に言い聞かせるようにそれぞれ呟き、二人は得物を構えジリジリと獣との間を詰めていく。…………
緊張感が高まる中、姉達の動向をハラハラと見守る弁丸は、怯えたままその場から一歩も動けずにいた。
大丈夫。姉上達は強いから……きっとなんとかしてくれる。
すがる思いで固唾を飲んでいたーーー
ーーー直後。
威嚇を示す獣から吐き出された咆哮が、静かな山林に轟きーーー
三人の体の芯に、響いた
ーーー・・・・・・・・・・
黒みがかった茶褐色の斑な毛を尻尾まで逆立て、鼻筋に皺を寄せーーー牙を剥き出す。
喉から唸りを漏らし、怒気を含んだその様相はーーー
見る者をただただ恐怖へと、誘う。・・・・・
「「あ……あ……」」
双子は構えていた竹刀を徐々に下げていき、
みるみる顔色が青ざめていった。
恐れおののき、地面を摺り足で後退していき………
逃げる力も無く、へたりと座り込んだ。
「あ、姉上……っ」
動揺した弁丸が声を掛けようとするも、腰が抜けて身を寄せ合う二人は火が付いたように泣き叫けんだ。
「「父上、母上ぇぇぇ!」」
突如大きな声を出され癇に障ったのか、獣は今にも攻撃を仕掛けてきそうなーーー低い体勢で狙っている。
「…………っ」
そばには、尚も泣き続ける姉達。
少し距離を空けた先には、襲い掛かろうとしている獣。
まさに、絶体絶命だーーー。