第17章 ユー・セイド・“グッド”
「「は〜やく、は・や・く〜」」
私のお尻を押して、歌うように急かす楓と紅葉はやけに上機嫌だ。
ーーーそれにしても人形で遊びたいなんてほんとに稀だなぁ。
うちにあるのは、同盟国の大名から贈られてきた高価そうな人形のみ。なのに、顔面に墨で悪戯書きしたり
私の剃刀を使ってふざけて髪の毛を角刈り風にカットしてみたりと………
ぞんざいな扱いをしたっきり暫く触ろうともしなかったのに。
どういう風の吹き回しなんだか。
そう子ども部屋へと歩いていると、
「「違う違う、あっち」」と首を振る双子が指差した方にあるのは、納戸。
「え……?そっちに仕舞ってたっけ?」
「「そーだよ!」」
そうだっけ………?
私の記憶違い……かな。
この時代の人形ってなんか怖くて、虫干しすらせずに放置してたしね。
納戸を開けると、薄暗い空間が現れる。
ここには様々なものが収納されているのだ。
「えーっと……どこだっけ……」
入口で佇む子ども達を背に、普段使用しない家具や調度品などがひしめく中をゴソゴソと漁る。
……………
………あれ………。
見つからない。
もっと奥に紛れているのだろうか。
一歩、もう一歩と進んで行く。
ーーーと。
バタンッ!
・・・・・
一瞬で、周りが闇に包まれた。
………引き戸が閉められると同時に。
「へ……?」
閉められた納戸の外では、ガコガコと不審な物音と娘の含み笑いが聞こえる。…………
「まさかっ……!」
引き返そうと真っ暗な視界を彷徨い、手探りで付近の置物や壁を伝っていきーーー入口から出ようとするも、
戸に何かが引っ掛かってほんの微々たる隙間しか開かない。
「「あははっ、逃げろ〜!弁丸、行くよっ」」
「う…うん、姉上……」
ドタドタと板張の廊下を走り去る三人の気配ーーー。
・・・・・
やられた…………!!
「ちょっと!待ちなさいっ、あんた達ーーー!!」
納戸からは、子ども達の策略によって閉じ込められた桜子の虚しい叫びと戸を叩く打撃音が響いていた・・・・・。