第17章 ユー・セイド・“グッド”
「えいっ、やあっ」
なんだか未熟で可愛らしい掛け声と共に振っている弁丸の竹刀を、難なく受け止めていく俺は笑みをこぼし
その技量を観察していた。
へえ、チビの割には太刀筋がしっかりしてきたな。
攻めに徹する楓や紅葉とは逆に、弁丸は慎重に相手の動きの中に隙を見つけようと探りながら打ってくる。
集中力もあるし、やる気も感じられる。
だがーーー
「ねぇ父上!父上のお嫁さんになるのは私だよね!?」
急に横から楓が割り込み、体当たりされた弁丸は地面に倒れ込んだ。
紅葉も負けじと出張ってくる。
「駄目ー!私が父上のお嫁さんになるんだからー!」
「違う!私だよ!」
「私だもん!」
互いに意見を譲らず、竹刀で叩くわ蹴るわの乱闘が勃発し………
仲裁に入るも全く収まる気配が無い。
あー、またこいつらは……。
大きく息を吐き手を焼いていると、
傍でむくりと起き上がった弁丸の面が今にも泣きそうにくしゃ、と歪んだのが見えた。
ーーー剣術に関しては将来が楽しみな息子だが、如何せん気が弱い。
見てくれは俺とそっくりでも、性格は正反対。
まぁでもこの先精神はいくらでも鍛えられる筈だし、
なんといってもまだ五歳の子どもだ。
気長に見守っていけばいいーーー
そう思い抱きかかえようとしたのも束の間、
「母上ぇ〜!」
身を翻し、涙を堪えて桜子の元へと走っていってしまった。
…………最早駆け込み寺だ。
すると、双子もそれに気が付き争いをやめると後を追う。
「弁丸狡い!私も母上にぎゅーしてもらう!」
「私も!」
・・・・・
ーーー騒々しく去っていく我が子達。
やれやれ、だ…………。
でも……
父上のお嫁さんになる〜、なんて……
可愛過ぎるにも程があるだろーが。
息子も泣き虫だが俺が構うと嬉々としてついてくる姿が愛くるしい。
“目に入れても痛くない”なんてーーー
独り身の頃はいまいちピンと来なかったが
親となった今、その言葉が十二分にしみじみと胸に沁みるようになったのだ。
何だってやれる気がするんだ。
子ども達とーーーあいつの為なら・・・・・
わらわらと三人に囲まれる桜子の幸せそうな表情を
己の目に映していた幸村は唇に弧を描き、着物の砂を払うと皆が居る縁側へと足を運んだ。