第17章 ユー・セイド・“グッド”
「お前等なぁ……」
いつ雷が落ちるのかと戦々恐々とする楓と紅葉。
うるうる瞳を潤ませ幸をじぃっと見つめる。
「「ごめんなさい……」」
眉尻を下げて謝る二人。………
見れば見るほど桜子の生き写しのような二人がうるうると……
うるうると……
「くっ………」
何かと葛藤しているのか、幸は眉間に皺を寄せ黙っている。
まさか、ね……。
ガツンと言ってくれる筈。
ガツンと………
「………意地悪ばっかしてねーでこれからは弁丸に優しくするんだぞ。約束できるか?」
ぽんぽん、と双子の頭を柔らかく手の平で弾くと
二人は素直に頷き、両脇から抱きついて幸の着物に頬を擦り寄せていた。
・・・・・
もぉぉ、そんなんじゃ駄目だよ!
甘やかすとつけ上がるのにっ!
ーーー幸は、娘達に激甘だ。
悪戯をしでかしても、あまり叱らない。
そりゃたまには本気で説教してくれる時もあるよ?
ごくたまにだけど。
兎にも角にも可愛くて可愛くて仕方が無いみたいだ。
その一方でーーー
「弁丸」
双子から離れた幸が未だ背中を丸めて泣きじゃくっている弁丸のところへ行き、ゆっくりと立ち上がらせた。
「男が泣いてばかりじゃ格好悪ぃぞ。立ち向かう勇気を持て」
「うっ……ひっく……ち、ちうぇぇ……」
鼻水をすすり抱きつこうとするも、
肩を掴まれ制止される。
ーーー幸は、弁丸に対してやや厳し目だ。
将来の為に男は小さいうちからしっかり躾けなければ、と以前言っていた。
「返事は?」
目を逸らさず問うと、
ひと呼吸置いた後意を決したように弁丸は口を開いた。
「……あい」
「よし。」
ふっ、と幸が口元を綻ばせると弁丸も真似するかの如くふにゃ、と笑った。
涙でぐっしょりに濡れた息子の顔を袖で拭くと軽々と抱き上げ庭先へ向かって行きーーー
娘達もきゃっきゃとその後を追う。
「……もぅ……。」
結局肝心の娘の粗相には叱らず終いだったけどーーー
皆の笑顔を見ていると、まぁ、いいか。と許せてしまう。
四人の楽しげな会話に怒りも鎮まっていき、裁縫の続きをしようと私は縁側に座り針を取った。
楓・紅葉、六歳
弁丸、五歳
寒くもなく暑くもない、肌心地の良い
五月・皐月のとある日の事だったーーー。