第4章 『旋風』
「本丸…………って」
(えぇぇぇ!?)
驚愕していると、棚の引き出しから小さいケースを出した謙信に無言で足を引っ張られた。
「何すん…………いってぇ!」
「騒ぐな。耳障りだ」
スエットを捲っていた膝に軟膏を塗られ、痛みが走った。
どうやら自分は擦り傷を負っていたようで戦いに興じていたせいか今まで気が付かなかった。
(ここまで担いできたのは手当てする為、だったんだ………無愛想だけど、実は優しい人なのかな)
ご丁寧に包帯まで巻かれた。
ここまでしなくても、と言ったが無視され今度は肘の傷の処置を始めていた。
「…………小娘、刀を持つ気はないか」
「え………?」
グッと包帯の端を縛り終えると謙信はゆったりと座り直した。
「……刀は必要ありませんけど」
「お前は女だてらに剣の腕前は相当なものだ。度胸もある。竹刀などで納まるのは宝の持ち腐れだ」
「………………」
「現代に帰る見通しもたっていないのだろう?その間過ごす、魑魅魍魎が闊歩するこの時代をどう生きる。上杉家由縁の姫という手前、狙われる可能性も無きにしもあらず。お前が刀を持てば身を守る事だって………」
「要りません!」
大声で遮ると、桜子は太腿に置いてある拳をギュッと握り締めた。
「身を守る為でも、人を死なせる武器は持ちたくないんです。……………死んだら、駄目なんです。死んだら、終わりなんです」
周りもなにもかも。
………………そう、なにもかも。…………全てが。
「…………あ………で、でも謙信様や他の皆の仕事を否定してる訳じゃないんですよ?そういう事もしなきゃいけない立場だからしょうがないし………」
「……………そうか」
しばし沈黙が訪れ気まずくなり、どうやってまぎらわそうかと辺りをキョロキョロしていると入口とは反対側の障子から日射しが入ってきているのが目についた。