第16章 ライジング・サン
まだ目も開いておらず、頭には細く柔らかい産毛が生えている。
けたたましく泣いてぐずる姿ですら愛おしい、
私の中から誕生した我が子。
やっと、会えたんだーーー・・・・・
「ふふ、可愛い……」
自分の涙を拭くのも忘れ娘の頬を指の腹で撫でていたが、泣き叫ぶもう片方の娘に視線を移し次はそっちの子を抱かせて貰おうーーーそう思い頼もうとすると、
佳世さんは抱えていた子を女中に渡し無言でスタスタと部屋の入口へ歩いていく。
「待って!どこ行くの?」
「姫君様達にはもう一人会いたい方がいる筈ですから」
………………
その思わぬ言葉の意図が解り、固まった。
だって、男は産室に入っちゃ駄目ってしきたりなのに………?
そういう決まり事にうるさい彼女がまさかこんな事を口にするなんて。
「……私は今まで真面目に……ひたすら真面目に秩序を重んじて生きて参りました。ですが……なんでしょうね、頑張る貴女を見ていたら……枠から少々はみ出しても悪くないのではと思ってしまったのです」
「佳世さん……」
「なので今日だけは……“そんなしきたり糞喰らえ”、ですよ」
幸の台詞を使ってにこりと微笑むと背を向け、襖を僅かに引き上半身を外に乗り出して通路に居る男性陣とボソボソ小声で話をしていた。
「……いいのか?」
「ええ。特別です」
佳世さんとそんな会話を交わし、招かれた人物は産室に踏み入ると後ろ手でパタンと入口を閉じた。
いつもの精悍な顔つきはどこへやら。
眉尻が下がって、今にも泣きそうなーーー
「桜子………!」
産まれた子よりも、先に私の元へ走り寄り
抱き締めてくれた愛しい人が、居た。