第16章 ライジング・サン
暫くして…………
とうとうお産ーーー分娩が始まり
桜子の悲鳴が産室から通路まで抜けていった。
びくっ、と身体が跳ねる。
「桜子………!」
いてもたっても居られず襖にすがり付いていると、各々それぞれの振る舞いをしていた他の三人も一気にそこに駆け寄ってきた。
「っうぅ………痛い、よぉっ………」
叫ぶ合間に吐き出される、桜子の掠れた痛々しい感情の表れ。
周りで介助しているであろう女中達による励ます言葉も飛び交い、緊迫感が伝わってくる。
「ゆ、き……っ幸……幸ぃっ……」
吐息混じりで必死に喉から絞り出したように、俺を呼ぶ。
「桜子……大丈夫だ、俺ならここにいるから……ずっといるから……」
離れていても俺の存在が確認出来る事でほんの少しでも彼女の苦痛を和らげられるなら………
そう何度も、何度も、繰り返し繰り返し
閉ざされた襖の向こうに想いを届けた。
こんな時、男は狼狽えるばかりでこうやって声を掛ける以外成す術が無い。
ーーー子も大事だが、桜子が無事じゃないと意味が無い。
出産が原因で命を落とす女は多いと聞く。
もしもそうなってしまったらーーー
俺は恐らく正気ではいられなくなる。
仕込んだのはお前だろう、と鼻で笑われるだろうが
願わずにはいられないんだ。
いつものように快活で愛らしく笑う桜子と平穏な未来を築くことを。
そこに“家族”が増えたなら……どんなに幸せだろうか、と。
願わずには、いられないーーー
幸村は、
桜子に触れられない代わりに襖の表面を愛しげに撫で、しきりに話し掛けていた
そうして一刻………いや、半刻か………
もう時間の間隔すら麻痺しているが、
喚き苦しむ桜子の壮絶さを感じながらその場にいる男全員が固唾を飲んでいるとーーー
重い空気を消し去るような
元気な産声が、上がった。