第16章 ライジング・サン
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どのくらい時が経ったのだろうーーー
桜子の呻きが断続的に上がるなか、俺は心配で堪らなくなるもやはり待ってる事しか出来ずうろうろと通路を行ったり来たりしていた。
ちら……と、他の面々に目をやる。
「………………」
黙ったまま立膝をつき、産室をジッと注視する謙信様ーーー。
俺と佐助によって進入計画が頓挫して面白くなさそうな顔をしていたが状況が状況なだけに強行突破も為せず、
桜子の唸り声が聞こえる度にピクリと眉を潜め
鞘から僅かに刀を抜き、鯉口を切る仕草をしている。・・・・・
一体何と戦おうとしてるんだか。
「謙信様、冷静になって下さい。冷静に。」
そばでは読書をしていた佐助が眼鏡の位置を直しながらそう謙信様を宥めている。が、
手にしている書物が逆さまだ。おまけにさっきから一頁もめくってねぇ。
涼しい顔で冷静を装ってはいるが・・・・・
佐助、実はてめぇが一番動揺してんじゃねーのか?
信玄様はというと、未だ計画を諦め切れずに通りすがる女中達を次々と誘惑してる。
佳世の怒りの圧力が強化された為、女中達は誘惑に惑わされる事も無くなり信玄様の色仕掛けも不発続きだが、「数撃ちゃ当たる」と豪語して
産室へ乗り込む機会を伺っている。・・・・・
もしかしてマトモなのって俺だけなのでは?
緊張感がふっ、と切れるかのような三者模様に間が抜ける心地だ。
………………
だけど…………
示し方は違えど、桜子の身を案ずる気持ちは皆同じだ。
独りきりで悶々と待つよりも、こうして居る方が遥かに心強いかもしれない。
俺も桜子も………なんて人に恵まれているんだろう。…………
皆に気付かれないように、ひっそりと頭を下げたーーー。