第16章 ライジング・サン
「なりません」
「いーからそこどけよ、佳世。中へ入らせろ」
走りに走ってーーー
肩で息をしていた俺は、冷ややかな面でこちらを見据える佳世と
産室の襖の前で対峙していた。
「ここより先は殿方は立入禁止でございます」
「俺はあいつの腹の子の父親だ。別にいいだろーが」
「父親でも駄目です。殿方は……」
「うるせぇ!そんなしきたり糞喰らえだ!」
中では桜子が苦しんでいる。
せめて傍らで手を握るぐらいはしてやりたいんだ。
大体どうして男は産室に立ち入っちゃ駄目なんだよ。
誰だよ下らねぇ決まりを作った奴は!
進路を妨害する佳世を無理矢理押し退け、引手に指を掛けた時ーーー
「幸………」
弱々しい桜子の声が襖の向こうから漏れてきた。
「私なら大丈夫だから……そこで待ってて?……」
「でもっ……」
「お願い……。女中さん達や佳世さんを困らせないであげて。幸がそこに居てくれるだけで、頑張れるから……だからお願い……」
…………………………
するりと引手から手が落ちる。
俺はなにやってんだか。
あいつの方が余程大人だ。
ーーー普段子どものように駄々をこねていた桜子からは、
“母親”の片鱗が確と感じられたのだーーー……。
「………あいつを、頼む………」
「はい。この私にお任せ下さい」
一歩下がって俯き加減で俺がそう呟くと、
佳世は一瞬口角を上げた後、再び真剣な面持ちに戻り産室の中へと消えていった。
やがて………
本格的な陣痛による桜子の苦痛に耐える呻きが上がる中………ーーー
俺は襖のすぐ横の壁に背を預け、
彼女と腹の子の無事をしきりに天に祈っていた