第16章 ライジング・サン
大慌てで広間に飛び込んできた女中によれば、
桜子は厠で用を足した直後腹部の痛みを感じうずくまってしまい、もしや……という事で産室へ運ばれて行ったそうなのだがーーー
板張の廊下を蹴り付けて城内を駆け抜け目的地を目指す。
緊張感と焦りが心身を支配し一心不乱に足を早め、
ああ、深酒しなくて良かったと思いつつも頭の中を占めているのは愛する女の映像だった。
ありとあらゆる表情が浮かび、余白など無い程にそいつで一杯だった。
「桜子………っ」
こんなにあいつの事で動揺したのは昨年のーーー
あの騒動以来だ。
あの時は今生の別れになるのではという恐怖心からくるものだったが
今回はそれとはまた違う感情でーーー
ただただ、名を呼んでいた。
桜子、
桜子…………!!
目的地に近づくにつれ、桶や大量の手拭を抱え慌ただしく行き交っている女中達と出くわしそのうちの一人の腕を鷲掴んだ。
「おいっ、あいつは今どうなってんだ!」
「陣痛が間隔的に来ています……。いつお産が始まっても良いように備えを万全にしなくては」
そう話す女中の手には白無垢が携えられている。
「それ、あいつに着せるんだろ?俺がやる」
「いいえ、これは私共の役目でございます。申し訳ありませんが急ぎます故」
「なっ……」
掴んでいる俺の手を振り切り足早に立ち去る後ろ姿に呆然とする。
なんだあれ。
桜子の着替えの役目を俺が担ったって別にいーじゃねぇか。
あいつは俺の妻だぞ?
幸村は腑に落ちず文句を垂れながら女中の後を追い産室へと突っ走っていったのだった。…………