第16章 ライジング・サン
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ーーーそれから桜子は食事を終えると
少し腰が怠いと訴えてきたので布団に寝かせたのだが、横になりながらも談笑を続けていた。
よほど春日山の皆と再会できた事が嬉しいのだろうーーー。
俺も同じく会話を楽しんでいると、桜子がおもむろに上体を起こしたのでその場に行き肩を支えた。
「ちょっと厠に行こうかな」
「分かった。じゃあ行くか」
「えっ!?幸は一緒に来なくていいよ」
「その腹で一人じゃ危ないだろ。何かあったらどうすんだ」
「そういう問題じゃないよ!やだやだ!絶対にやだっ!」
そう頑なに拒否して結局佳世に付き添いを頼んで行ってしまった。
今更何を恥ずかしがってんだ。俺に尻を見られる位どうって事ないだろうに。
釈然とせず頭を捻っていると、盛大な笑い声が噴出した。
「幸〜!お前、厠は遠慮しろよ厠は。ほんと過保護もいいとこだよ……あー腹痛い」
身体をくの字に曲げて悶える信玄様の横では、謙信様が眉間に深く皺を刻んでいて、佐助は笑いを堪えているのか顔面を引き攣らせ震えている。
なんで笑ってんのか謎だ。あいつに何かあったら大変じゃねーか。
三人の反応がいまいち理解できずにいると、笑い疲れた信玄様が俺の猪口に酒を注いできた。
「しっかし……あの幼かった幸がもうすぐ父親か……感慨深いな」
「………そうですね。桜子に出逢う前は想像もつきませんでした」
「俺、生きてて良かったって心底思うよ。幸の子にお目にかかれそうで良かった」
その柔和な表情に、一口飲んだ酒が身に染み渡る。
信玄様の肺の病は最近症状が落ち着いているものの、これからいつどうなるか分からない。
そんななか、俺の子が生まれるのを楽しみにしてくれているーーー。
「俺も、信玄様が生きててくれて良かったと思います。……心底」
目を合わせ、ふ、とお互い笑みを浮かべ
今度は俺が酌をしようーーー
そう徳利を掴んだ時、
バタバタと騒々しい足音が廊下から響き勢いよく障子が開けられた。
「幸村様!奥方様が………!!」