第16章 ライジング・サン
「大事にされてるねぇ、天女は。手取り足取りで」
「ふふっ、大事にされ過ぎちゃって」
一連の様子を観察していた信玄様が傍らから笑みをこぼす。
無言のまま私を完全防備に仕立てた後、照れて下を向き料理を食べ始める幸がなんだか可愛い。
「幸と天女の子かぁ………俺は女がいいなぁ。きっと美しいだろうから存分に着飾らせてやりたいな」
「女だろうが男だろうが、ゆくゆくは俺の元で剣術のいろはを叩き込んでやる」
信玄様が目を細めて希望を語っていると、盃を片手に謙信様が背後からぬっ、と介入してきた。
共についてきた佐助は眼鏡を煌めかせ私のお腹をまた凝視していたので「触ってみる?」と言うと、こくりと首を縦に振りぎこちない手つきでさすっている。
「……すごい。生命の神秘だね。……桜子さんそっくりの子も良いけど小型の幸も見てみたい気がする……どっちも捨てがたいよ」
いつもの無表情が僅かに緩みかけたーーー途端、
謙信様と信玄様の手が同時に伸びてきた。
「佐助、主君を差し置くとはいい度胸だ」
「抜け駆けはいけないよ、佐助」
そこまでして触りたいのだろうか……
大の男達が私のお腹に群がって押し合いへし合いしながら撫で回したりつついてみたりとーーー
傍から見れば奇妙な光景だ。
その奥には、謙信様に突き飛ばされ畳に転がった幸がむくれ面で騒ぐ三人をギロリと見ていて
思わず苦笑してしまった。
ーーー皆、この子の誕生をこんなにも待ち望んでいる。
この時代で生きると決めた限り、実の両親に報告する事も祝福される事も無く
心の片隅に悲しさや淋しさを潜ませていたけれど………
こうして、それらを埋めてくれる。
大好きな、素敵な人達が。
触れられている皆の手の平からは、確かに愛が感じられたのだーーー。